中国BYDが申請を表明した「PHP」って、どんな制度? メリットは?

中国製BEVの日本発売は2023年から

 中国の民営系自動車メーカー大手のBYDオートが、日本市場への参入を発表した。具体的な商品情報は前項で紹介したとおり。BYDは日本での販売にあたって「日本でPHPを取得する」方針を明らかにした。

BYD アット3

BYDが日本で発売を予定している電気自動車アット3

 PHPとは輸入自動車特別取扱制度(プレファレンシャル・ハンドリング・プロシージャー)というルールで、1車種につき年間5000台を上限に簡素な書類審査で日本市場での販売を許可するという国土交通省が定めた制度だ。

 過去に中国車がPHPを取得した例はないが、BYDは「申請中」だと説明している。
 PHPが取得できなければBYDは並行輸入扱いとなり、1車種年間200台が上限になる。

BYDアットスリー

アット3のインテリア

 日本で自動車が一般公道(道路運送車両法が適用される道路)を走行するための最低条件は、ナンバープレートの交付を受けることだ。そのための手段はいくつかあり、国産車の場合はほとんどの車種が国土交通省の型式審査を受け「型式指定」を取得している。型式指定車は新車登録(軽自動車の場合は届出)の際も継続車検の際も書類提出だけで事務手続きを完了できる。トラックやバスのように仕様類別が多い場合や少量生産車の場合は、新型届出制度の適用を受ける。
 輸入車の場合は、VW(フォルクスワーゲン)ゴルフのように1車種での販売台数が多いケースを除き、ほとんどがPHPを利用している。型式指定の審査には現車の提出などが必要で、費用は数千万円かかる。

PHP制度の仕組みとメリット

 これに対してPHPは、型式指定に比べて10分の1程度の書類と費用で済む。簡易な書類提出で日本の基準に適合しているかどうかを審査する。車両による審査や、品質管理体制審査が省かれる。
 ただし、日本に輸入元に準ずる法人が必要であるほか、原則的には欧州のUN/ECE(国連欧州経済委員会基準)または米国のFMVSS(連邦自動車安全基準)あるいはCMVSS(カナダ自動車安全基準)のどれかに適合している必要がある。

BYDドルフィン

ドルフィン 全長×全幅×全高4290×1770×1550mm

 これは日本に限った話ではなく、UN/ECEの1958年協定を批准している国同士の間では「同じ車両の場合は製造国での認証を受け入れる」ことが約束されている。ドイツで生産された車両がUN/ECE基準にパスしていれば、日本はそれを尊重して「日本の基準をパスした車両」として迎え入れる。これが相互認証協定である。
 中国はECEに準じた基準(GB=中国国家標準規格)を導入しているが、1958年協定は批准していない。そのためEUでも日本でも中国車は相互認証での受け入れ対象ではない。ただし、中国はUN/ECEの1998年協定を批准しているため、日本と中国が合意すれば両国間の話し合いによって相互認証対象にすることができる。

日本と中国の「保安基準」の確認が必要

 具体的なプロセスとしては、日本の「道路運送車両の保安基準」と中国のGBについて、それぞれの規定が「どの条文に示されているか」を確認すれば相互認証が可能になり、日本は中国車へのPHP適用が行いやすくなる。ただし現状では、中国政府からの申し出はない。
 EUと中国の関係も同様で、相互認証は行われていない。ただし欧州各国では自分で組み立てる「キットカー」が公道を走ることを認めており、UN/ECE基準を満たしていない車両でも排出ガス検査さえパスすれば販売が認められる。

BYDシール

シール 2023年後半に発売される予定のスポーティセダン

 欧州に輸出されている中国製乗用車はキットカー枠を利用している。なお、トラック・バスの場合も国ごとの基準があるが、乗用車に比べれば申請は簡素といえる。
 米国は世界でも珍しい事後認証制度を採用している。したがって、誰でも自由に自動車を販売することができる。日本やEUのように事前の書類提出や審査はない。FMVSSの規定に沿って製造されているかどうかは、当局が市場からの抜き取り調査で確認する。

 もし、FMVSSを満たしていない部分が見つかった場合は、是正されるまで販売停止の処分になる。規定違反が悪質だと判断されると製造停止や巨額の罰金の対象になる。

日本は輸入車に対してオープンな市場

 日本は、世界的に見ても外国製自動車の受け入れにオープンな姿勢を示している。PHP制度は日本独自の仕組みであり、国土交通省、経済産業省、外務省の連携も取れている。海外から「閉鎖的な市場」と非難されないよう、海外の自動車メーカーに対してかなり譲歩しているといえる。実際、2013年までのPHPは2000台を上限にしていたが、輸入の際の負担を軽減するために上限を5000台に増やした経緯がある。

 BYDがPHPを申請している件については、どのような判断が下されるかまだわからない。しかし、これを機に中国と日本の間で、基準すり合わせの作業が始まる可能性も否定できない。なお、BYDがUN/ECEまたはFMVSSを取得すれば、日本でも無条件で受け入れられるようになる。

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