ピレリP ZEROファミリーはP ZERO/P ZERO E/P ZERO R/P ZERO TROFEO RSの4タイプで構成。高性能ウルトラハイパフォーマンスタイヤの世界標準的な位置付け。ライン装着タイヤとして選ぶブランドも多い。その設計には最新のコンピュータシミュレーションを活用している
ピレリP ZEROは、1985年にランチア・デルタS4ストラダーレの足下を固めるタイヤとしてデビュー。いまやヨーロッパ製プレミアムカーの足元を支えるアイテムとして定着した。ライン装着タイヤとして選ぶブランドも多い。そのPゼロには、いまや4つのタイプがあることを皆さんはご存知だろうか?
ひとつはハイパフォーマンスカーや高性能SUVで定番になりつつあるP ZEROR。そしてハイパフォーマンスカーのなかでも、とりわけサーキットでの性能を重視したモデル向けのP ZERO TROFEO RS。また、高性能なBEVで最近よく見かけるのがP ZEROEだ。これは転がり抵抗が低いだけでなく、使用される素材の実に55%以上がバイオベースもしくはリサイクル材料という環境重視タイヤでもある。
そして残るひとつがP ZEROファミリーのスタンダード、その名もP ZEROだ。先ごろ、このP ZEROが第5世代に切り替わったのを機に、イタリア・ミラノのピレリ本社で開発風景を見学するとともに、最新のPゼロ・ファミリーに試乗する機会を得た。その模様をお知らせしよう。
P ZEROファミリーの最新作はP ZEROだが、それ以外のP ZEROたちも日進月歩の勢いで進化している。P ZEROシリーズはライン装着のニーズも高く、自動車メーカーからの様々なリクエストに絶えず対応しているからだ。たとえばグリップや乗り心地、そして静粛性といった性能をつねに改善しているという。
そうしたなかで、最近のP ZERO、それもとりわけP ZERO Rで印象的なのが滑り出しの特性変化。マイルドに生まれ変わったことで、限界的なコーナリングが安心して楽しめるようになった。これがスーポーツカーにとって極めて重要な性能であることは明らかだ。
今回もモンザ・サーキットでPゼロRを装着したポルシェ911カレラ4GTSやBMW M5に試乗したが、セミウェットコンディションのなか、なんの不安も抱かずにグリップ限界を試すことができた。これはP ZERO Rの高いポテンシャルの恩恵といって間違いない。それでいて一般道での快適性にも配慮されているのだから、万能性が高いタイヤと評価できるだろう。
いっぽう、第5世代に切り替わった新P ZEROは、メルセデスベンツGLE450dに装着して一般道で試乗した。こちらはワインディングロードを走る機会に恵まれなかったものの、タイヤの当たりがソフトなのにダンピングが良好で、乗り心地は実に快適。しかもピレリ独自のノイズキャンセリングシステム“PNCS”を搭載していることもあってノイズが低く抑えられている点が印象的だった。
すべてに高性能で、多彩なキャラクターを備えたPゼロ・ファミリーが誕生した背景には、最新のコンピューター・シミュレーションが大きく関わっている。
一見したところ、ただの「黒くて丸いモノ」としか思えないタイヤだが、実際にはゴムや化合物を始めとする素材、タイヤの骨格というべき構造、そして路面と接することになるトレッドパターンなど様々で複雑な要素から成り立っている。それらの組み合わせを、かつてのように設計→試作→試験のサイクルを繰り返しながら開発していては、いくら時間があっても足りない。そこで現在は試作や試験の多くをコンピューターシミュレーションに置き換え、開発時間の大幅な短縮を実現しているという。だからこそ日々、発展できるのだ。今後もP ZEROファミリーはコンピューターの力を借りて完成度を高めていくに違いない。大いに楽しみである。