史上、最も素晴らしいスーパーカーは何か。ランボルギーニ・ミウラやカウンタック、フェラーリF40にF50など、さまざまな意見があるだろう。個人的にはマクラーレンF1にとどめを刺す。1992年のモナコで衝撃のデビューを果たしたF1は、BMW製V12エンジンをリアミッドに配置したセンターシート+2のロードカーだった。
設計者はご存じ、ゴードン・マレー。レースカーの世界で知られる超一流マシンデザイナーである。セナ・プロのマクラーレンMP4/4(1988年)などは彼の最高傑作だ。
そんな彼が再びスーパーカーの世界に戻ってきた。2020年にT.50を、2022年にT.33を、それぞれ発表したのだ。
戻ってきた理由がまたふるっていた。曰く、「F1(ロードカー)のオーナーたちがみんないうんだよ。あれから30年以上経ったというのにF1を超えるスーパーカーが出てこないって。だったら自分でF1を超えるスーパーカーをもう一度作ってみようじゃないかって思ったんだ」
T.50はまさしくF1超えを狙って設計されたスーパーカーだ。同じくセンターシーターレイアウトとし、1万回転以上回るV12自然吸気エンジンをリアミドに積んで、3ペダルギアボックスを組み合わせた。車重はわずかに1トン。F1を超えるアイテムとしてT.50にはブラバムF1のようなリアファンを装備した。1970年代に速すぎて禁止されたアイテムだ。車両価格が邦貨にして4億円を軽く超えるというのにT.50(世界限定100台)は発表即日完売御礼となった。みんなほしかったのだ、マクラーレンF1のような、そしてF1を超えるスーパーカーが!
対してT.33はもう少し「常識的」なスーパーカーだ。シートレイアウトはコンサバな2シーターで、スタイルもどこか1960年代イタリアンベルリネッタ風(名前を見ればゴードンの思いもわかる)、2ペダルも選べたがカスタマーはみんな3ペダルを選んだ。
T.33の生産台数はクーペ100台とスパイダー100台。とはいえエンジンは同じくV12NAで、1万回転回る。重量は1トンちょい。刺激的なスーパーカーには違いない。こちらも完売御礼だ。
マクラーレン本社にも近い場所に建設されたGMA(ゴードン・マレー・オートモーティブ)の新工場ではT.50の生産が終盤に差し掛かっていた。早くも新車点検で戻ってきたカスタマーカーなどもあって、大いに賑わっていた。とにかく「乗り倒す」派のオーナーが多く、中にはスペインまで自走し、船で持って帰ってきた猛者もいるという。1000kmの新車点検など皆あっという間らしい。T.33の生産も今年中に始まる予定である。
世界の名だたるスーパーカーブランドは、客の望むままにパワーを上げ、制御を進化させ、ラグジュアリー化に熱心だ。その結果、大きくなって重量が増し、それゆえまたパワーアップを繰り返してきた。「ピュアなドライビングファンの追求」はほとんど死語になり、真に楽しいスーパーカーなど皆無、それがゴードンの主張だ。確かにマクラーレンF1を初めてドライブしたときの衝撃を超えるマシンに、この30年間、出会っていない。
2台のGMAはこの30年間のスーパーカーの進化に対するゴードン流アンチテーゼであった。