マイバッハEQS 680 SUV 価格:2790万円。EQS 680 SUVはⒻアクスルに174kW/346Nm、Ⓡアクスルに110kW/609Nmを発揮するモーターを搭載。システム総合で484kW(658ps)/955Nmのハイパワーを誇るプレミアムSUV
マイバッハは、ダイムラー社でゴットリープ・ダイムラーとともにエンジン開発に携わっていた、ヴィルヘルム・マイバッハという技術者が起源。マイバッハは1909年に自身の会社を設立。飛行船ツェッペリン号にエンジンが搭載されたことで一躍有名になった。
第1次世界大戦後、ヴェルサイユ条約により航空機の製造ができなくなると、自動車や鉄道、ドイツ軍戦車のエンジンを製造したほか、自社エンジンを搭載した高級車を販売するようになる。ドイツ車初の12気筒エンジン搭載車はマイバッハだった。
ただし、ビジネスとしてはあまり成功しなかった。1960年には、かつて袂を分かったダイムラーに買収され、メルセデス・ベンツの超高級仕様を手がけるようになる。だが、その名前が表に出ることはほぼなくなった。
そんな中、20世紀の終わりに転機が訪れた。1997年、東京モーターショーで「マイバッハ」を名乗るコンセプトカーが世界初披露されたのだ。それから5年後の2002年、マイバッハ 57/62が発売され、ダイムラー・クライスラー傘下で完全復活を遂げた。復活版マイバッハは、Sクラスのプラットフォームとパワートレーンを用いながら内外装をすべて専用に仕立てていた。
大いに注目されたマイバッハだったが、2012年に一旦、独立ブランドとしての幕を閉じる。その後2015年にメルセデス・ベンツのサブブランドとして再復活し、現在に至る。「57/62」時代は六本木に専用ショールームを置き、インポーターの直販という形式がとられたが、現行モデルはメルセデスの販売店で購入できる。なお、マイバッハやSクラスやGクラスなど、上級モデルの専売拠点(世界初)が2022年末に東京・銀座に設けられたが、同様の専売拠点を全国の主要4都市に新設する旨が先日発表された。
2025年5月の時点で、マイバッハにはEQS SUVのほかにSクラスとGLSがあり、冬にはSLが加わる予定。これまでマイバッハはショーファーカー専門の印象だったが、ドライバーズカーへと積極的にイメージチェンジ中である。
紹介するEQS SUVは、マイバッハ唯一のBEVであり、ショーファーカーとドライバーズカーという2つの個性を備える。しかもSUVとしてオフロードにも対応。ハイエンド高級車の中で極めて個性的な存在である。
マイバッハには、ひと言でいうと「上には上があったのだ」と実感させるプレミアム性が必須だ。EQSはベース車でも十分すぎるほどの高級車である。マイバッハはいっそう特別な存在として、明確な特別仕立てが図られた。
具体的には、内外装を誰の目にもわかりやすく豪華に仕立て、キャビンは4シーター仕様に変更。高性能なパワートレーンを積み、シャシーは専用チューニング仕上げ。「路上のファーストクラス」にふわしい超ハイグレードなBEVが、マイバッハEQS680SUVである。車両価格はベース車比約1200万円アップの2790万円。
その価格差が納得できる特別ぶりである。エクステリアは見てのとおり堂々とした印象。インテリアにはウッドをあしらった専用のセンターコンソールやリラクゼーション機能を備え、シートは内蔵エアチャンバーが乗員の体格に合わせて最適なサポート性を提供する。
試乗車は、着脱可能な冷蔵庫を含むファーストクラスパッケージ(123万6000円)、ナッパレザー仕様(224万7000円)、ツートーンペイント(285万9000円)を装着。オプション価格もケタ違いだ。
試乗のメイン舞台は、このクルマには不似合いな箱根のワインディング。その走りは圧巻だった。まずは乗り心地が素晴らしい。22インチの大径ホイールと低扁平タイヤを履きながら、バネ下の重さを感じさせない。多少の凹凸をものともしないスムーズを披露した。
さすがに山岳路ではブレーキングやコーナリングで、車重が3㌧を超えることを実感する。だがホイールベース3mオーバーながら、ハンドリングは正確で動きが把握しやすい。これは舵角の大きいリアアクスルステアリングも効いているに違いない。
性能も「超高級」だ。最高出力は658ps、最大トルクが955Nm、0→100km/h加速は4.4秒で駆け抜ける。パワーは十分で上り勾配をものともしない。
感心したのは、アクセルやブレーキの操作にあくまで忠実に応えてくれること。これならドライバーにとっては扱いやすく、同乗者にも不快な思いをさせる心配は少ない。ここまで丁寧に作り込まれたクルマは他に心当たりがない。
バッテリー容量が大きく一充電走行距離が640kmと長い点は、ユーザーを不安にさせないために必要な要素だ。
セレブのニーズに対応できるメーカーは世界でも限られる。マイバッハは高級車作りに長い経験を持つメルセデスらしい作品。超富裕層を満足させに十分な完成度の持ち主である。