マセラティGT2ストラダーレの走りは鮮烈そのもの。加速、コーナリング、減速のどれもがドライバーの期待を上回る。写真は電子式e-LSD、セラミックブレーキなどを備えたパフォーマンスパック装着車。3リッター・V6ツインターボ ネットゥーノ・ユニットは制御と排気システムをリファイン。マセラティ・ロードカー最強の640cv/7500rpm、720Nm/3000〜5500rpmを発揮する
ミッドシップスーパーカー、MC20はマセラティ新時代の象徴として誕生した。強固で軽量なカーボンモノコックボディに完全自社開発の新設計V6ネットゥーノを搭載。マセラティ伝統のグラントゥーリズモであると同時に、サーキットでの活躍も生まれながらに約束されたモデルだった。
果たしてMC20をベースにレーシングカーのGT2が生産されると、欧州におけるジェントルマンレースの最高峰「ファンテックGT2選手権」に参戦し、昨年2024年は見事にチャンピオンを獲得した。ワークス参戦ではなくプライベーターへのマシン供給だったというから、マシンの高い完成度やポテンシャルの高さがうかがえる。
GT2マシンの高いパフォーマンスをロードカー向けに再転用することは必然の成り行きだった。世界限定914台(創業年の1914年にちなんだ台数)、スタンダード仕様でほぼ5000万円という高価なスーパーカー、GT2ストラダーレである。
ストラダーレはGT2由来のデザインモチーフを持つ空力デバイスをふんだんに盛り込んだ。フロントグリルは大きく広げられ、ボンネットやフェンダーの上部にはエアの通り道を設定。サイドのインテークはより多くの空気を取り入れられるよう大型化され、巨大なスワン型リアウイングと迫力のアンダーディフューザーが備わる。パーツのほとんどはカーボンファイバー製であり、オプションで織り柄を見せることもできる。
20インチの鍛造ホイールもまたGT2とよく似ており、三叉の槍を三組組み合わせたスポークデザインだ。タイヤはスタンダードモデルと同様にBSポテンザを標準で履く。オプションでミシュランカップ2Rが用意されている。
インテリアも精悍だ。ダッシュボード周辺はレーシーに作り変えられ、MC20の面影はほとんどない。レースカーさながらに鮮やかなイエローでエリア区分が示されている。黄色はコーポレートカラーの青と並んで故郷モデナのテーマカラーだ。ステアリング形状も専用で、シフトアップインジケーターが埋め込まれている。
シートはカーボンシェルを持つサベルト製。まるでガンダムスツールのような形状を持ち、いかにも軽そう。事実、シートだけで20kgのダイエット。普通のスポーツシートも選択可能である。
自慢の3リッターネットゥーノV6ツインターボエンジンには、制御と排気システム以外、ほとんど手を加えなかった。最高出力は640cv。アップはわずか10cvにとどまる。無闇にエンジン性能を引き上げる必要がなかったことは、そもそもMC20のポテンシャルが高いことの証明である。
最初にプライベートサーキットでパフォーマンスを存分にテストした。MC20は戦闘的なレイアウト&パッケージをエレガントな衣装で覆い隠した、いわばスーパーモデルのようなマシンである。そのドライブフィールはGT風味が強く「まろやかさ」がウリだった。ところがGT2ストラダーレはまるで違う。マッチョなアスリートである。パフォーマンスは完全にリアルスーパースポーツの領域にあった。
とにかくすべての反応がクイック。加速、コーナリング、減速、いずれもがドライバーの期待を上回って速く、しかもすべてが連動して提供されるから、ドライバーの意思がマシンの動きになかなか追いつけない。プロフェッショナルならきっと面白いように操ることができるはず。シロウト+αの「アラカンドライバー」では、どこのコーナーでも操作に遅れをとって悔しい思いをした。
前輪の動きはとにかく正確で、状況把握がたやすい。一方、後輪はパワートレーンを背負ったドライバーと見事に一体となって、圧倒的な加速を演出する。試乗車にはトラックを攻めるのに必須のパフォーマンス・パック(前出のミシュランタイヤなど)が装着されていた。これにはカーボンコンポジットブレーキも含まれる。テスト車はサーキットで集中的に使用されていたようだが、ストッピングパワーは健全で、ハードな制動の繰り返しにも音を上げなかった。
GT2ストラダーレは、どこからでも力強い加速をみせる。安全マージンをとって、一段上のギアで走っても速い。シャシー制御は優秀で、すべてを任せて曲がっていく勇気があれば、どこまでも速く旋回できそう。まさにトラックで総合力を楽しむマシンに仕上がっていた。
一般道でも試す。さすがにソリッドで硬いライドフィールに終始する。だがカーボンボディのおかげで足がしっかりと自分の仕事をこなしてくれる。かなり高速なカントリーロードでもGT2ストラダーレにかかれば困難はまるでない。クルマのほうが力を持て余しているようにさえ思える。もちろん、速度を少し落としてクルージングすればいい。硬めのフラットライド感も慣れれば心地よく、スポーツシートを選べば日常使いに問題はなさそうだ。
だが、そこはイタリア製サーキット志向マシンだ。もっと踏んでくれよと、終始ドライバーを煽ってくる。街中でその挑発に乗らず、冷静にクルーズさせることは至難の技だった。