【竹岡圭 K&コンパクトカー【ヒットの真相】スズキ・スペーシア「安全機能充実、燃費良好、使いやすい」(2024年5月号掲載)

スズキの軽自動車の中ではNo.1の販売台数を誇るスーパーハイトワゴンのスペーシアが2023年11月に3代目にフルモデルチェンジした。新型は、「わくわく満載! 自由に使える安心・快適スペーシア」をコンセプトに進化させており、販売台数は順調に推移している。では、スペーシアがヒットする裏側に隠れた“このクルマ本来の魅力に迫ってみよう。

 

 パレットという車名、みなさん覚えていらっしゃいますか? そう、スペーシアの前身モデルです。そこからスペーシアと名前を変えて3代目。軽スーパーハイトワゴンであることは一貫していますが、フルモデルチェンジのたびに新しい機能を盛り込んできているのもスペーシアの特徴なのです。

 最新型はミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせた衝突被害軽減ブレーキ、デュアルセンサーブレーキサポートⅡが全車標準装備されたり、全車速追従機能・停止保持機能付のACCや、電動パーキングブレーキの採用など、運転サポート技術がテンコ盛りにグレードアップされている他、ステアリングヒーターなんていう、なんだかプレミアムな装備まで盛り込まれました。

 そして、何といっても目玉はリアシート。後席の前端を伸ばしたり起こしたりできるようになっているのですが、よくある運転席の座面前端を伸ばせるような蛇腹式とは違い、シャフトがついたヘッドレストのようなものが、座面前端にも付いているというアイデアが非常にユニークなんですよね。

 ちなみにこの装備は、マルチユースフラップというんですが、3つの機能を持っています。走行中の姿勢を安定させるレッグサポート機能、オットマン機能、荷物落下防止機能として活躍してくれます。

 きっと、こんな面白いことを思いついたのも、スペーシアの後席スペースが広いからなのでしょう。軽自動車をファーストカーとして使うシーンが増えてきましたし、セカンドカーとしても後席にチャイルドシート上のお子様&大人1名というパターンも多いですよね。そんなときに乗員がくつろげるように、よりシートをゆったりと、という気遣いからの発想だと思います。

 だったら単純にシートを大きくすればいいじゃないか? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、後席をダイブダウンさせて広い荷室スペースにするという機能も両立させなければいけないので、そう簡単にはいかないのが軽自動車の難しいところ。かつ、腕の見せどころ。

 軽自動車は限られたスペースの中で、からくり箱のような仕掛けを作らないと、全部を満足させるのは難しいからこそ、新しい発想が生まれてくるような気がしてなりません!

 とはいえ、軽自動車の乗車人数は平均1.4名というデータもあり、通常はカバン落下防止機能として使うユーザーが多いような気もしますが(ちなみに私もそう)、これは本当に便利! フラップをポコンと起こすだけなので、簡単で使いやすいのも魅力的。実際、使う気になる新機能だと思います。

 シートといえば、シートアレンジが豊富な点もスペーシアのいいところ。助手席の座面を前方に跳ね上げ、背もたれを前倒ししてフラットにすることができるんですよね。ちなみに座面の下には、スズキの軽らしくしっかりバケツが入っています。

 このバケツも車検証などをこちらに入れて、グローブボックスを日常使いするというのもいいですし、汚れても簡単に洗えるので、履き替え用の靴などを入れておくのもお勧めです……と、話が少々逸れました。もとい。シートアレンジです

 助手席と合わせて、左側の後席も倒すと長尺物もOKの広々スペースが生まれますし、逆に運転席も合わせて背もたれを後ろに倒すと、寝転がれる広々フリー空間が生まれます

 表裏のどちらもほぼフラットで広い空間として使えるので、ライフスタイルやシーンに合わせて、本当に多用途に使えますよね。スリムサーキュレーターが搭載されているので、空調も万全です。
マイルドハイブリッドのメリット

 さて、これだけいろいろできるとなると、荷物を満載して遠くにお出かけなんていうシーンも増えると思うのですが、そんなときに効いてくるのがマイルドハイブリッドです。排気量が決まっているからこそ、このモーターアシストが威力を発揮してくれているのがよくわかるんですよね。

 その恩恵をとくに大きく感じるのが、発進時と中間加速とACC使用時。

 発進や中間加速はいうまでもないのですが、ACC使用時って前のクルマが急加速すると、パワーの立ち上がりが遅いクルマは一拍おいてからついていくような感じになることが多いですよね。

 軽自動車ともなると、一瞬置いていかれたような気にさえなりますが、モーターアシストがあるとその空白の時間が短縮されたようになり、俄然スムーズさが違うんです。置いていかれる感じがないので、高速ロングドライブ時は気持ち的にもゆとりが出て、疲労度にも確実に差が出てくると思います。

 結果として、空間的にも運動性能的にも快適性が高いから、またどこかへお出かけしたくなる。だからこそ、乗員のための新機能を開発する。その美しいループにつねにチャレンジし続ける姿勢が、スペーシアのヒットの真相なのかもしれませんね。

スペーシア「ヒットの真相」

1)デュアルセンサーブレーキサポート2など安全機能を一層進化させ、最新の運転サポート技術が充実して安心感がアップ
2)リアシートにオットマン機能を持つマルチユースフラップを採用(スズキ初)。広い室内をより使いやすく快適な空間へと進化
3)マイルドハイブリッドモデルはモーターのアシストで余裕の走りと軽スーパーハイトワゴンクラストップレベルの低燃費を両立

■主要諸元

グレード=スペーシア ハイブリッド X
価格=170万5000円
全長×全幅×全高=3395×1475×1785mm
ホイールベース=2460mm
トレッド=フロント:1295×リア:1300mm
最低地上高=150mm
車重=880kg
エンジン(レギュラー仕様)=657cc直3DOHC+モーター
型式=R06D
燃料タンク容量=27リッター
最高出力=36kW(49ps)/6500rpm
最大トルク=58Nm(5.9kgm)/5000rpm
モーター最高出力=1.9kW
モーター最大トルク=40Nm
WLTCモード燃費=23.9km/リッター
(市街地/郊外/高速道路=22.4/25.2/23.7)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:トーションビーム
ブレーキ=フロント:ディスク/リア:ドラム
タイヤ&ホイール=155/65R14+スチール
駆動方式=FF
乗車定員=4名
最小回転半径=4.4m

●今回の試乗車はスペーシア(標準車)の上位モデル「ハイブリッドX」で、NAエンジン+モーターのマイルドハイブリッドシステムを搭載したFFモデル(170万5000円)。ボディカラーは有料色(6万500円)となるミモザイエローパールメタリック/ソフトベージュ2トーンルーフ。メーカーオプションとして、全方位モニター付メモリーナビゲーション(19万5800円)、セーフティプラスパッケージ(6万6000円)、ディーラーオプションとして、ETC2.0車載器(4万6640円)、フロアマット(ジュータン・ファイングッド)(2万7060円)、ドライブレコーダー(9万9800円)などを装備。オプションを含む車両総額は220万800円となる

たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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