BMW・M3コンペティション 価格:8SAT 1324万円 試乗記
第6世代となるG80型3シリーズをベースとするM3が、日本に上陸した。
3シリーズがBMWの基本であるのと同様に、M3はMモデルの中心的な存在だ。1985年登場のE30ベースの1stモデル以降、つねに世界のクルマ好きを魅了し続けてきた。M3を知らずしてMを語るなかれ、といえる。
第5世代から自然吸気エンジンに別れを告げ、セダンとクーペ(M4)が別々の名前を名乗るようになった。とはいえ、魅力の本質は変わらない。いや、最新の第6世代となってM3らしさに拍車がかかった。それは「ミッドサイズのハイパフォーマンスサルーンの頂点を極める」という狙いが明確になったからだ。スポーツ性能=高級という価値観が一般的になった現代において、ライバルモデルは従来以上に増えた。さすがのMもウカウカとはしていられない状況だった。しかし最新モデルに乗って、そんな心配など杞憂だったと思い知らされた。
M3は、基本的にはクーペのM4と同じメカニカルスペックを持つ。駆動方式は現在、FRのみ。間もなく4WDも登場予定だ。トランスミッションは8速ATの1種。M4は3ペダルの6速MTが選べるが、M3には 未設定だ。個人的には逆でもいいのでは、と思った。この点は、2ドアモデルのMTのほうが市場ニーズが大きい、というメーカーの判断だろう。
M3コンペティションの魅力は、もちろんエンジンとシャシーだ。3リッター直6DOHC24Vツインターボ(S58型)のスペックは510ps/6250rpm、650Nm/2750~5500rpm。走り始めた瞬間から、ドライバーはエンジンの存在の大きさを感じることになる。きめ細かな制御を誇る8速MステップトロニックATとの組み合わせで、駐車場をゆっくりと出発すると同時に、精緻で滑らかな駆動パフォーマンスが実感できるのだ。
勇ましいエグゾーストノートが、低い回転域、つまり法定速度域でもそれなりのボリュームで室内に伝わってくる。それによって心がいっそう浮き立つ。ステアリングフィールはつねにガッチリとした印象で、サスペンションは路面の形状に忠実な動きを見せる。
ポイントは、足回りのリニアで素直な反応性だ。路面の凸凹をドライバーに伝えつつも、しなやかにいなす。上下動が少なく、決して不快な気分にさせない。フラットに心地よく進むライド感覚は、スタンダードの3シリーズとはまるで異なる次元にある。適度に硬く、抜群に洗練された味わいは、新世代のスポーツセダンを名乗るにふさわしい。
パワートレーンとシフト制御をスポーツ+に変えて、右足を踏み込んだ。0〜100km/hは3.9秒でクリア。加速フィールはスーパーカー級だ。実際にはそこまで速くないにしても、「箱(サルーン)の視線」ではそう感じる。腰が浮くようなスリリングさもある。コーナー手前での強力な制動フィールが、加速以上に気持ちいい。
M3ををスタンダードモデルとは別次元のマシンだと思わせたのが、ハンドリングである。とにかく曲がる! まるでMRスポーツのように自在に曲がるのだ。怖いくらいである。M専用仕立てのサスペンションとデファレンシャル、ブレーキシステム、さらにはそれらの統合制御の賜物だ。
全体的な印象としてはスパルタン度が旧型よりもずいぶん増したように思う。久しぶりに硬派なスポーツサルーンに出会った。何より常時、剛性の高さを強く感じさせるボディが気に入った。がっしりとした印象に包まれたドライブは、すべてを可能にしてくれるという錯覚さえ生む。
クーペと同じ大きなグリルもいい。絶妙なオーバーフェンダー処理と相まってM4以上に似合っていると感じた。標準3シリーズにもこのグリルを設定してくれたらいいのに……真剣にそう思っている。
価格=8SAT 1324万円
全長×全幅×全高=4805×1905×1435mm
ホイールベース=2855mm
トレッド=フロント:1615×リア:1605mm
車重=1740kg
エンジン=2992cc直6DOHC24Vターボ(プレミアム仕様)
最高出力=375kW(510ps)/6250rpm
最大トルク=650Nm(66.3kgm)/2750〜5500rpm
WLTCモード燃費=10.1km/リッター(燃料タンク容量59リッター)
(市街地/郊外/高速道路=6.9/10.4/12.3km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ=フロント:275/35R19/リア:285/30R20+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=5名
最小回転半径=5.2m
最高速度=290km/h *
0→100㎞/h加速=3.9秒
※価格は消費税込み *Mドライバーズパッケージ装着車
撮影協力/マースガーデンウッド御殿場