TOYOTA GAZOO Racingが新型ハイパースポーツの「GR GT」と、FIA GT3規格のレーシングカーを目指した「GR GT3」のプロトタイプを発表。トヨタ初のオールアルミニウム骨格、4リットルV8ツインターボをはじめとする新技術など新製法を積極的に採用して、今までにないハイパフォーマンスを実現。日本のモノづくりの伝統を継承する「トヨタの式年遷宮」として“クルマづくりの秘伝のタレ”を次代に伝承することも開発の狙い。2027年の発売を目指して開発を進行中
トヨタ グループのハイパフォーマンスブランドに位置するTOYOTA GAZOO Racing(TGR)は2025年12月5日、新型ハイパースポーツの「GR GT」と、FIA GT3規格のレーシングカーに準拠した「GR GT3」のプロトタイプを初公開した。

▲TOYOTA GAZOO Racingが新型ハイパースポーツの「GR GT」(写真・右)と、FIA GT3規格のレーシングカー「GR GT3」(同・左)のプロトタイプを公開。2027年の発売を目指して開発を進める
往年のトヨタ2000GTやレクサスLFAに続くフラッグシップスポーツの位置づけとなる新型GR GTと新型GR GT3は、スポーツカーそしてレーシングカーとして高い運動性能の実現はもちろん、ドライバーとクルマが一体となり、クルマと対話し続けることができる“ドライバー・ファースト”の実現を目指して企画。また、日本のモノづくりの伝統を継承する「トヨタの式年遷宮」として“クルマづくりの秘伝のタレ”を次代に伝承することも開発の狙いに据える。開発の初期、つまり車両のコンセプトを策定する段階からマスタードライバーであるモリゾウこと豊田章男会長を中心に、プロドライバーの片岡龍也選手、石浦宏明選手、蒲生尚弥選手、ジェントルマンドライバーの豊田大輔選手や社内の評価ドライバーが、エンジニアとワンチームになって開発を推進。クルマを操るドライバーのニーズに耳を傾け、正しく理解し、それを具体化する“ドライバー・ファースト”を鋭意追求していく。GR GTをベースにしたレーシングカーのGR GT3も、共通したコンセプトのもとで開発を進めた。

▲往年のトヨタ2000GTやレクサスLFAに続くフラッグシップスポーツに位置する新型GR GTと新型GR GT3は、スポーツカーそしてレーシングカーとして、高い運動性能の実現はもちろん、ドライバーとクルマが一体となり、クルマと対話し続けることができる“ドライバー・ファースト”の実現を目指して企画される。発表の舞台には最初にサイモン・ハンフリーズCBOが登壇し、後に豊田章男会長に引き継ぐ
公道を走るレーシングカーをコンセプトに開発するGR GTは、“ドライバー・ファースト”を実現するために3箇条を掲げた。
まずは“低重心パッケージ”。開発にあたっては徹底した低重心化を目指し、全高とドライバーの位置を極限まで下げようと考えることからスタートする。駆動方式は限界領域までの扱いやすさを考え、FR(フロントエンジン・リアドライブ)を採用。ドライサンプ方式を採用した4リットルV8ツインターボエンジンや、リアに搭載したトランスアクスルのほか、ユニット類の最適配置によって重量物の重心位置を大幅に引き下げ、ドライバーとクルマの重心をほぼ同じ位置に設定した。
次に“オールアルミニウム骨格”。最大限の軽量・高剛性を実現するために、トヨタとして初めてオールアルミニウム骨格を新開発する。また、フードやルーフ、リアパネルといった重要部位にはカーボンファイバー(CFRP)材を、フェンダーやドアなどにはアルミ押出材を使用し、強くて軽いボディに仕立てた。ボディサイズは全長4820×全幅2000×全高1195mm、ホイールベース2725mmに設定。車重は1750kg以下を想定している。
そして、“空力・冷却性能追求デザイン”。通常はエクステリアデザインを決めてから空力を考慮するが、GR GTではそのプロセスから見直し、空力性能の理想像を定めてからエクステリアをデザインする逆転の開発工程を敢行する。開発の際には、FIA世界耐久選手権(WEC)の参戦車両を担った空力エンジニアも参画し、空力設計担当者とエクステリアデザイナーが一丸となって設計を手がけた。そして、具体的には“空力モデル”と呼ぶ、空力設計のメンバーが提案した理想のフォルムを表わした模型をベースに車両パッケージを決定。そのうえで、量産化を見据えてエクステリアデザイナーがスケッチを描き、最終的なデザインを決めていくという手法を取った。



▲“空力・冷却性能追求デザイン”を採用。通常はエクステリアデザインを決めてから空力を考慮するが、GR GTではそのプロセスから見直し、空力性能の理想像を定めてからエクステリアをデザインする逆転の開発工程を敢行する

▲エクステリアは“空力モデル”と呼ぶ、空力設計のメンバーが提案した理想のフォルムを表わした模型をベースに車両パッケージを決定。そのうえで、量産化を見据えてエクステリアデザイナーがスケッチを描き、最終的なデザインを決めていくという手法を取る。ボディサイズは全長4820×全幅2000×全高1195mm、ホイールベース2725mmに設定。車重は1750kg以下を想定する
2シーターのインテリアについては、ドライビングポジションと視界を最重視したデザインとし、プロドライバーやジェントルマンドライバーとともに、サーキットユースとデイリーユースを両立する最適なデザインを目指して設計する。そして、理想的なドライビングポジションを追求していくなかで、“守られ感”が重要であることを再認識。スイッチ類もドライビングに関わるものをステアリング付近に配置し、直感的に押しやすい位置と形状にするなど、操作性の良さにもこだわった。また、メーター表示についてはサーキット走行時でも視認できるように、シフトアップインジケーターとシフトポジションといった情報表示の幅、高さ、位置などを試行錯誤しながら作り上げた。
「徹底的に小さく、軽く」を設計思想に据えた注目のパワートレインは、トヨタとして初めて市販車に搭載する新開発の3998cc・V型8気筒ツインターボエンジンに、新開発の8速ATおよびモーターを一体化したリアトランスアクスルで構成するハイブリッドシステムを搭載して後輪を駆動する。V8エンジンはボア87.5×ストローク83.1mmのショートストローク化によってエンジン高を抑え、合わせてバンク内に2つのターボを配置したホットV形式を採用し、さらにドライサンプシステムによるオイルパンの薄型化などを図った。エンジンが生み出した動力は、カーボンファイバー製のトルクチューブを介してリアのトランスアクスルへと伝達。トランスアクスルはモータージェネレーターに加え、トルクコンバーターを廃した“WSC(ウェット・スタート・クラッチ)”と組み合わせる新開発の8速AT、機械式LSDを一体構造とし、動力をタイヤまでダイレクトに出力する。
システム最高出力の開発目標値は650ps以上、最大トルクは850Nm以上を想定し、最高速度は320km/h以上を発揮。また、リアトランスアクスルの採用と、駆動用バッテリーや燃料タンクといった重量物の最適配置によって前後重量配分は前45:後55に設定し、ハンドリング性能やドライバーの扱いやすさの向上を果たす。なお、パワートレインの開発にはレース車開発で使われているドライビングシミュレーターや、パワートレインシステムごと台上に搭載できるシステムベンチを活用しながら様々な検討を進め、熱対策や搭載位置、さらには整備性にも配慮。そして、継続的に販売を続けるために、今後さらに厳しくなる排ガス規制への対応も視野に入れて開発する。GR GT3にも、GR GTと骨格部品の多くを共用した4リットルV8ツインターボエンジンを搭載し、駆動レイアウトはFRで仕立てている。

▲新開発の3998cc・V型8気筒ツインターボエンジンを搭載。ボア87.5×ストローク83.1mmのショートストローク化によってエンジン高を抑え、合わせてバンク内に2つのターボを配置したホットV形式を採用し、さらにドライサンプシステムによるオイルパンの薄型化などを図る
GR GTは高い動力性能を発揮するのみならず、V8ツインターボならではのレーシングサウンドも追求する。サウンド自体は「クルマと対話できるサウンド」「熱量変化を感じさせるサウンド」の2つの柱を軸にチューニング。排気管の構造を作り込み、エンジンスタートから加減速まで、クルマの状態と連動する排気音を奏でるという。
シャシー面では、前後ともにアルミ鍛造アームを使用したローマウントの新設計ダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用。サスペンション特性をゼロから開発し、日常使いから限界域までリニアなレスポンスと高いコントロール性にこだわってセッティングする。タイヤはミシュラン社と共同開発したPILOT SPORT CUP2を装着し、サイズは前265/35/後325/30ZR20に設定した。なお、サスペンションとタイヤは開発初期からプロドライバーと共にシミュレーターを活用し、実車の走り込みとシミュレーター評価をアジャイルに行うことでサーキットやワインディングロード等の一般道でもクルマと対話できる、GR GTに最適な性能を目指して開発を進める。一方、制動機構は前後共にBrembo社製のカーボンセラミックディスクを採用。ブレーキを使った車両挙動の制御もプロドライバーとともに作り込む。また、VSCは駆動力とブレーキ制御を多段階で調整可能。運転技量や走行時の天候に応じて車両コントロールの難易度を自ら選択することで、より楽しく、安心してドライビングを堪能できるようアレンジした。この機構はニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦車にも採用しており、モータースポーツ参戦によって鍛えられた技術の活用のひとつである。
FIA GT3規格のレーシングカーを目指した「GR GT3」に話を移そう。プロドライバーのみならずジェントルマンドライバーを含めた、誰が乗っても扱いやすい究極の“ドライバー・ファースト”マシンとして開発を進めるGR GT3は、前述のGR GTから譲り受けたボディ構造やシャシー、パワートレインをベースに、FIA GT3規格に準拠したモディファイを実施。迎角調整が可能なリアウイングなど専用設計の空力パーツの採用やCFRP材の拡大展開、強化サスペンションの装着などを敢行して、サーキットシーンにおけるパフォーマンスを向上させる。ボディサイズは全長4785×全幅2050mmと、GR GTと比べてショート&ワイド化した。
パワートレインには、ハイブリッド機構を省略した純内燃機関の3998cc・V型8気筒ツインターボエンジンを搭載。レースシーンを鑑みて、ラジエターやインタークーラーなどの大型化も図る。排気システムのレイアウトも変更し、マフラーエンドはサイド出しとした。
コクピットについては、ロールケージを組み込んだうえでフルバケットのレーシングシートや6点式シートベルトを配備。ステアリングには各種調整が手元で行えるスイッチおよびボタンを配したカーボンファイバー骨格の専用ステアリングを装着している。
なお、GR GTは2027年の発売を目指して開発を進行中。また、GR GT3も2027年シーズンのレースデビューを目標にテストを進めているという。
