
スズキ・カプチーノは1991年10月にデビュー。「オープンマインド2シーター」をキャッチコピーに掲げ、カタログでは「軽の夢、夢の軽。カプチーノはスピードより、日本の四季に吹く風を楽しむクルマ」と表現。カプチーノは熱心な信奉者に支えられ、1998年まで販売。1995年にはAT仕様も誕生した
ボクはホンダ・ビートも好きだし、このカプチーノも大好きだ。もしガレージに余裕があれば、どちらかをそばに置いておきたいところである。両車に共通する素晴らしさは、オリジナリティの高さだ。Kカーであることをほとんど意識させない。これは実に素晴らしい。これからの時代は低燃費化や低公害化がどんどん促進していく。そんな中で小さいクルマの地位は当然のように上がっていく。
そうしたときに要求されるのが、「クラスレス感」である。たとえサイズがKカーであっても、大きなクルマの横に並んでしっかりと自己主張し、光って見えるクルマが必要だ。カプチーノとビートを見たとき、ボクはそんな未来につながる大切な息吹を感じた。
まずルックスだが、ボクは大好きだ。カプチーノはKカーらしいファニーな表情と同時に、Kカーらしくない重みというか、高い質感がある。両者のバランスは実にいい。多くのユーザーから安心感を持って迎えられそうな気がする。同時に、人気を一時的なものに終わらせないことにも結びつくようにも思う。
カプチーノは2シーターのフルオープンカーである。その4ウェイトップはアイデア賞ものだ。この採用により、雨の日にも幌を雨粒がたたく音とは無縁なキャビンでくつろげる。雨漏りなど、まったく気にしないでいい。幌型のクルマに多い、アクリルのリアウィンドウに傷がつき、変色して後ろがほとんど見えなくなる心配もない。
このトップは3分割式になっていて、それぞれが着脱できる。Tバールーフの中央部分を外せるようにしたものだと思えばいい。ガラスのリアウィンドウ部分は、下げるとそのままトランク内に収納できる。つまり、フルオープン/タルガ/Tバールーフ/クローズドボディと、4タイプのボディバリエーションが楽しめるというわけだ。実に素晴らしい。フルオープンにしたときの楽しさと、クローズドボディにしたときの快適さ、便利さの高度な両立は、文句なく大拍手ものだ。
コクピットもよくできている。Kカーらしくない落ち着き感とくつろぎ感を備えている。欲をいえば、遊びグルマなのだからもうひとつ、どこか「不良っぽさ」みたいなものがあってもよかったと思う。ビートには、少し「軽さ」はあるものの、キラリと光る雰囲気がある。
エンジンは3気筒のツインカム12Vだ。ターボを組み込み、657ccの排気量から64ps/8.7kgmの出力/トルクを発揮する。
ウェイトは700kgと軽くはないが、走りは文句なしに活発だ。ターボは、3000rpm超えたあたりから威力を発揮しはじめる。そこからレッドラインの8500rpmまでの強力なパワーは、Kカーといえどもあなどれない。山岳ワインディングロードのヒルクライムにトライしても十分に楽しめる。シグナルGPで大きなクルマのハナをあかすのも、そう難しいことではない。3000rpm以上をキープしていれば、いつも生き生きと、パンチのある走りを楽しませてくれる。
ハンドリングもトータルに見てよく仕上がっている。ただし、ステアリングのニュートラル付近の反応は少し甘い。高速走行時にはちょっとしたキッカケで進路を乱したりもしがちだ。ここは要改良である。しかし、そのほかの点は、いい線に仕上がっている。ミニスポーツとしての身のこなしの軽さも、安定性も、そしてもちろん楽しさもクリアしているといっていい。
FRレイアウトのカプチーノは、たっぷりとしたトルクを後輪にフルに送り込むとドリフト状態に入っていく。後輪の接地状態はそうした際にも安定しており、トラクションが抜けるといった不具合も出ない。カプチーノは、ワインディングロードに持ち込んでもたっぷりと楽しめるし、気持ちのいい汗をかかせてくれる。そんなホットな走りにチャレンジしても、ブレーキはしっかりと耐えてくれる。
とにかくカプチーノはよくできている。オープンカーとしても、クローズドボディのクーペとしても、そして走りを楽しむドライビングカーとしても魅力的なコンパクトカーだ。
※CD誌/1992年1月26日号掲載
