竹岡圭 K&コンパクトカー【ヒットの真相】ルノー・カングー「180度開くダブルバックドア採用で使いやすさ満点」(2025年10月号)

フランス生まれの多用途MPV、ルノー「カングー」が2025年7月にマイナーチェンジを実施。使い勝手の良さと遊び心あふれるデザインはそのままに、パワートレーンや装備の熟成で魅力をさらに高めた。日常からアウトドアまで幅広く活躍する唯一無二の存在となったカングーの魅力を、最新モデルに試乗して探ってみた。

「商用車をベースにしたフランスの箱型のクルマ」それがカングーであり、このカテゴリーのパイオニアに君臨しているモデルとなります。商用車だからこそ、乗用車を超えるガシガシ使うようなテストをクリアしてきているので、頑丈さはお墨付きだったりするのも特徴です。そして、このカテゴリーのクルマは、2002年から2019年まで、日本市場においてはカングーの独占市場でした。

 ところが2019年にプジョー・リフターとシトロエン・ベルランゴが、そして2023年にはフィアットからドブロがやってきまして、一挙に盛り上がりを見せてきたんです。ちなみにこの3モデルは兄弟車種なので、ベースは同じ。とはいえ、ブランドごとに乗り味が異なるのはさすがといったところなんですよね。ショートホイールベースとロングホイールベースモデルがあり、なかなかの人気となっております。

 そしてそこに負けじとカングーも、2023年にはロングホイールベースの3列シートモデル、グランカングーを発表したり(日本未発売)、2025年7月には2列シートカングーにマイナーチェンジを施したりと、さらなる大注目となっているのが現状となります。

 さて、その中でもカングーにしかないもの。ズバリ! それはダブルバックドアです。これは左右観音開きのバックドアでして、しかもヒンジを倒すと180度ガバッと開くんですよね。そしてトノカバーも後席の背もたれの後ろにキレイに収まったりと、荷室がとっても使いやすいんです。  

 ちなみに現行カングーが登場したとき、つまりマイナーチェンジ前は、ブラックバンパーとカラードバンパーモデルがあり、ブラックバンパーに左右観音開きバックドアの組み合わせは、日本仕様専用の特別仕様でした。

 通常そんな仕様設定をしてくれないそうなのですが、日本はカングー人気がとにかく高く、しかも商用車としてお仕事で使っているわけではなく、みなさん自分の愛車として楽しんでいて、おまけにカングージャンボリーのようなカングーが数百台集まる大規模なお祭りまであるという、世界でも類をみない仕向け地だということを、フランスでも認識しているから実現できたんだそうですよ。

 フランスのモブージュ工場というところでカングーは作られているのですが、日本での人気の高さには工場の方々もビックリされているんだそうです。

 そして、今回のマイナーチェンジでは基本はカラードバンパーのみとなり、ブラックバンパーは、カングークルールという形で日本に導入されることになりました。このカングークルールというのは、150台限定のモデルで、クルール=フランス語で色という名前が付けられているくらいですから、ボディカラーは特別なオランジュ・コロンジュというオレンジ系のモデルが入ってきます。

 人気車種ともなると、いわゆるヒトとはちょっと違う「私だけの1台」がほしくなるのはつねですから、人気のブラックバンパー仕様が“私だけの1台”としてバリエーション豊かに、それも限定的に発売するクルール戦略はファンにとってもうれしいニュースだと思います。まぁ、細かくさまざまな仕様を設定するのは、メーカーとしては大変かもしれませんが……(笑)。

 他にも、今回のマイナーチェンジではフロントマスクを含むエクステリアが若干変わったりしておりますが、運動性能的にはタイヤが16㌅から17㌅になったことくらいしか記述がないんですね。ところがこれフランス車、いや輸入車のつねといいましょうか、詳しくリリースには書かれていないけれど、年次変更などで細かく手が加えられたうえに、このたびのマイナーチェンジで各部の改良が行われているように感じました。

 というのも、乗り心地が全然違うんですよ(笑)。マイナーチェンジ前のクルマは、商用車っぽさはどことなくあるものの、長距離ドライブしても疲労度が少ない。とくにシートが抜群によくて、後席でもまったく腰が痛くならないなんていうくらいのレベルにはあったんです。事実、私が東京から石川県まで往復したときも、腰痛も出ず、全然苦にならなかったんですよね。

 これが今回のマイナーチェンジで、しなやかさというキーワードを手に入れたんです。どことなく感じられた商用車っぽさが、まったく消えてしまった感じで、たとえば玄関先に靴が何足か出ていたら、ついつい履きやすい靴を履いてしまうっていうことあるじゃないですか。そんな感じで、チョイ乗りからロングドライブまで、パッと乗りたくなるというクルマになっていて、お出かけの頻度まで増えるような気がするんですよね。

 働くクルマだからこそ人に優しい。そんなフランスの思いやりを感じつつ、ダブルバックドアを開けた先に待っている楽しいライフスタイルを思い描けるところが、カングーのヒットの真相ではないでしょうか。

ルノー・カングー「ヒットの真相」

1)日本独自仕様の左右観音開きダブルバックドアを採用し、荷室の使いやすさと個性を追求。ファンの熱意に応える特別仕様も魅力
2)マイナーチェンジで乗り心地がよくなった。商用車の骨太さを残しつつ、しなやかで長距離走っても疲れにくい快適性を実現
3)働くクルマ由来の頑丈さとフランス流の遊び心を融合。日常からレジャーまで活躍するライフスタイル提案力がヒットを支える

たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

SNSでフォローする