4代目となるトヨタ・スープラ(国内は2代目)は1993年5月にデビュー。THE SPORTS OF TOYOTAを標榜し「スポーツカーの未来を提示する」と宣言。カタログでは世界屈指の運動性能を、トヨタの名にふさわしい高度な安全性、快適性、環境性能のもとで実現したと語りかけた
新型スープラをトヨタは高性能スペシャルティカーではなく、「スポーツカーだ!」と言い切る。「だから、300㎞/hを射程に収めた圧倒的な性能を持っていなければならない」という。さらに新しい時代のスポーツカーは「コンフォート性を犠牲にしてはダメだ」ともいう。スープラはトヨタの技術イメージのリーダーになることを義務づけられ、高い目標を掲げて開発されたクルマである。
とはいっても、性格はホンダNSXとはまったく違う。高性能車であっても、幅広いユーザーを対象にし、割安感のあるプライスタグをつけるといった“トヨタ車のボーダーライン”を超えてはいない。
だからフロントサスペンションはソアラと共用、エンジンはアリストやクラウン、マークⅡなどと共通といった成り立ちは避けられなかった。そうした制約の中で、スープラははっきりとした主張のあるスタイルと、圧倒的な高性能の獲得を目指した。そしてその目標は、かなりのレベルで達成しているといっていい。
インプレッションは、最強のRZグレードを軸にして進めていく。ルックスは、文句なくアグレッシブだ。周囲にある種の“怖さ”を感じさせ、威圧感を抱かせるルックスである。新型スープラのスタイリングは、どこから見ても存在感が強い。しかもアクの強さも備えている。“好き”“嫌い”あるいは“憧れ”“反発”といったまったく相反する印象が、見る人を二分するだろう。
室内は実質的には2シーターである。後席はなんとか使えるが、日常的にはジャケットかバッグを置く場所だと考えておいたほうがいい。リアのラゲッジスペースもミニマムである。でも、この割り切りがいい。「スポーツカーだ!」と宣言する以上、カッコよさと優れた走りにプライオリティを置くべきである。犠牲が生じるのは当然なのだ。
キャビンはドライバー中心のアレンジだ。ドライバーズシートに座ると、それだけで高揚感が湧き上がってくる。ポルシェ911の“固くしっかりした殻の中にいる”印象に対して、スープラは“厚いバリアに包まれた”印象である。スポーツカーに必要なタイト感を実感する。
ドライビングポジションに難点はない。腰椎支持部の面圧分布には、もうひとつといった印象を持ったが、シートのサポート性にも合格点がつく。かなりハードなドライビングにトライしても、運転姿勢を保つための労力はあまり要求されなかった。
3リッター・ツインカム24Vツインターボは、基本的にアリストと共用だ。280㎰/5600rpm、44.0㎏m/3600rpmのスペックも同じである。
このエンジンは、いわゆる“ドッカンターボ”と表現できる特性だ。強いステップのついた4000rpm以上のパワーの盛り上がりは強烈だ。4000rpmを境にした伸びは、多くのユーザーに「すごい!」と感じさせるだろう。いうなれば、商売のしやすいキャラクターだ。
この直6ターボはETCS(電子制御スロットルシステム)を組み込んでいる。路面のミューに応じて(ミューの低下を車輪のスリップによって感知して)、アクセル開度に対するエンジン出力を制御するシステムだ。なかでもスリップコントロールは、出力とアクセルストロークの両面を総合的にコントロールする。一般的なトラクションコントロールに比べてドライバーの意思とテクニックをより尊重する制御になっているのが特徴だ。
雪道など滑りやすい路面でもスロットルコントロールの幅が広くなっており、ミスを犯さなくて済む。しかも滑りにくいドライ路面ではアクセル操作に対する出力上昇がよりアクティブになるように工夫された。ドライバーの意思とテクニックを一段とダイレクトに伝える。高性能車にとって、トラクション性能は“命”ともいえる要素だ。スープラのスリップコントロール機能は、注目に値する。
新型スープラは280㎰を5600rpmで得ている。レッドラインは6800rpmだ。ここまでなんとか有効なパワーはキープしているが、6000rpmあたりから出てくる振動感には不満が残る。「トヨタの技術イメージをリードする高性能車」と宣言するのなら、トップエンドで現れる質感の悪さ、厚みのなさはいただけない。
低速域での使いやすさは文句なしだ。たとえば、5速1000rpm(40㎞/h弱)でも、6〜8%の上り坂を滑らかに走り続けてくれる。クラッチも軽いし、ミートに神経を使う必要はない。混雑する街中でもドライバーに肉体的な負担をかける心配はほとんどないはずだ。
RZのマニュアルギアボックスは、ゲトラグ製の6速タイプだ。シフトフィールはとくにカチッとしたものではない。しかし、熟練度の高いドライバーにとって、そんなフィールがかえって自分のリズムを生み出しやすくしている。このギアボックスは44.0㎏mという強大なトルクを支えるに十分な能力を持ち、レーシングライクなシフト操作を繰り返してもつねに余裕を感じさせてくれた。
サスペンションは4輪ダブルウィッシュボーン式。フロントはソアラ譲りだが、リアは新設計だ。タイヤはフロントが225/50ZR16、リアが245/ZR16の組み合わせである。
ハンドリングは確かにスポーツカーを宣言するだけのレベルに達している。ワインディングロードで叩き出すアベレージスピードも文句なしに高い。しかし、評価基準を引き上げると、いろいろな課題が現れる。フロントの重心はもう少し下げたいし、キャンバー剛性もいまひとつ。リアは横剛性をもうワンランク引き上げたい。
ワインディングロードのホットな走りで、RZがどんな挙動を示すかを具体的に報告しておこう。そこそこの攻め方なら、スープラはドライバーのイメージどおり、意思どおりのラインをトレースし、次々とコーナーを駆け抜けていく。この段階では、スリップコントロール作動のサインはまず出ない。ドライバーは6速MTをしっかりコントロールして、4000rpm以上のドッカンパワーゾーンにタコメーターの針を閉じ込めることだけに意を注いでいればいい。それで十分に速いし、なんの文句も出てこない。しかし、そのゾーンを超えて280㎰/44.0㎏mの実力をフルに発揮させようとすると、注文が出てくる。
下りのコーナー、とくに比較的速いコーナーを激しく追い込んでいくと、バランス的にフロントタイヤのショルダー部に負担がかかりすぎるといった感触が顕著になる。そして、タイトなコーナーを攻め込んでいくと、トラクションレベルをもうワンランク引き上げてほしいと感じる。ドリフト状態に入ったときの、リア側の安全度と座り感もリファインしてほしい。とくに修正舵に対する正確性への要求度は、かなりシビアだ。大雑把な修正舵の場合、挙動は安定しない。不特定多数が乗る可能性が高い“トヨタのスポーツカー”であれば、もう少し要求度のレベルを引き下げてほしい。それにはリア側の横剛性をさらに引き上げることが必要だろう。
下り勾配の低中速コーナーでは、フロントとリアのバランスが適当で、比較的素直なドリフトに持ち込みやすい。が、同じようなコーナーの上りでは、そのバランスが崩れて、アンダーサイドとオーバーサイドのつながりに滑らかさを欠く印象があった。
ソアラやそのほかのクルマと多くのユニットを共用しているのだから、妥協しなければならないところがあるのは当然だ。しかし、たとえばフロントの重心を下げることや、前後荷重配分のさらなる適正化を求めたい。トヨタの高性能車を代表するスープラである。将来、こうしたバリアを突破してほしい。
とはいえ、電子制御式4WSなどのデバイスを使わず、オーソドックスな技術でここまで煮詰めた開発スタッフの努力に大きな拍手を送りたい。努力の積み重ねは、今後もきっと大きな実りを生むだろう。
乗り心地は当然固めだ。強い段差やひび割れた路面などでのショックは、少しカドが立っているといった印象を受けた。しかし、この種のクルマとしては十分許容範囲に入っている。ただし、シートクッションの改良でさらによくなる可能性が高い。
簡単にツインターボと4速ATを組み合わせたGZの印象にも触れておこう。とくにかく速い。4000rpmで一気に盛り上がるパワーは多くのユーザーに強い刺激を与えるだろう。
ところで、フロントに235/45、リアは255/40サイズの17㌅タイヤを装着し、4ポッドキャリパーの大径ブレーキと320㎰パワーで武装した輸出モデルは、走りの課題をかなり高いレベルでクリアしているようだ。できればそれを確かめ、改めて新型スープラのトータルな実力を判断、報告したい。
※CD誌/1993年7月26日号掲載