クルマ好きであれば、小さなころにレーシングマシンを操るゲームを楽しんだことがあるだろう。
いま、そうしたレーシングゲームは、コンピュータの進化にあわせ、驚くほど高度化している。コースもマシンの動きも非常に正確に再現することができるようになっているのだ。実際に、プロの最高峰、F1ドライバーでさえも、レース本番に向けた練習や検証、開発などにシミュレーターを利用するほどである。そのためゲームではなく、レーシングシミュレーターやレースシムなどと呼ばれるようになっている。
では、そんなレースシムはリアルなモータースポーツの活動に、どのように活用すればよいのだろうか?
レースシムの利用を提供するだけでなく、リアルなサーキット走行やレース参戦のサポートまでを行っているHC GALLERYにアドバイスをもらうことにした。話してくれたのは、スタッフであり、現役のプロフェッショナルレーシングドライバーでもある山田遼さん(上の写真)だ。
「僕がアドバイザーを務めるHC GALLERYのレースシムは、2つの筐体を使っています」と山田さん。ひとつは筐体が可動するDRiVe-Xで、もうひとつがZENKAI RACING(固定型)という商品だ。どちらも非常に高性能で、ちょっとした高級車1台分くらいの価格となる。可動式のDRiVe-Xは、筐体の前側にアクチュエーターがあり、後ろにスプリング&ダンパーを備える。加減速やコーナーに合わせてシートが動くため、ドライバーは疑似的な加速Gを感じながらプレイすることができる。とくにDRiVe-Xは、リア側にスプリング&ダンパーを使うため、サーキット走行で後輪が滑る状況を、よりリアルに再現できるという。ただし、可動式の筐体は慣れない人が利用すると、3D酔いすることもあるため、比較的3D酔いしにくい固定式を用意する必要があるという。また、リアルのモータースポーツに興味のないレースシム専門のプレイヤーには固定式が好まれる傾向もあるそうだ。
では、そんなレースシムは、リアルにサーキットを走るモータースポーツに役立つのだろうか? その答えはYESだ! HC GALLERYでは、まったくのモータースポーツ初心者に対して、サーキット走行前に、必ずレースシムで練習をさせているという。
「サーキットでクラッシュする、その多くが、コーナーへの突っ込みすぎと、ステアリングの切り遅れです。そうした部分を、レースシムで事前に矯正しています」と山田さん。そうしたレースシムの練習を積む成果は、HC GALLERYでサーキットデビューした数百人の顧客は、誰ひとりとしてデビュー当日にクラッシュしたことがないという実績に現れている。レースシムを使った練習を「大人の教習所」と呼んで、安全にサーキットを走ることを重視してきたのがHC GALLERYなのである。
では、そんなレースシムを、やり込めば、リアルでのサーキット走行のタイムがアップするのであろうか? それは、YESでもあり、NOでもあるという。上手に活用できればYESとなるが、漫然と使うだけではNOだという。 「実際に、レースシムだけしかやっていない人は、どれだけレースシムで速くても、リアルなサーキットでは、遅かったりします」と山田さんはいう。なぜなら、どれほど精密にシミュレーションしても、完全にリアルと同一にはならないからだ。具体的にいえば、レースシムの上級者は、コーナーに対して、常に同じブレーキングポイントで走り続ける。それがレースシムで速く走るコツだからだ。しかし、リアルではそうはいかない。走るほどにタイヤやブレーキは酷使されて性能が落ちるし、一方でコースにはタイヤのゴムが蓄積してグリップが増していく。
リアルでは、そうした不確定要素が多く、それを探りながら走る必要があるのだ。ところがレースシムの経験しかないと、状況の変化にうまく対応できず、その結果、数周でクラッシュという結果になりかねないのである。 「コツとしては、最初にレースシムをやり込んで、その後はリアルのサーキットを走り込みます。そして、レースシムとリアルの違いを理解して、キャリブレーション(調整)することが必要です。よく、“レースシムとリアルでは、フィーリングが違う”という方がいますが、キャリブレーションが足りないのだと思います。経験的に、レースシムからリアルに来た場合、10~15本くらい走り込む必要があるようです。それくらい走ると、うまくキャリブレーションができて、急にタイムがアップします」と山田さん。
山田さんは「レースシムとリアルの違いを理解することが大切である」とも説明します。 「脳トレのツールとして使いましょう。たとえば、1周目はチェック走行、2周目は攻めて、3周目は抑えめ、そして4周目にまとめるというような戦略的な使い方や、コースを覚えるとか、ベストなラインを探し出すなどの検証に使うのもいいですね」と山田さん。
「レースシムを上手に攻略できる人は、リアルでもうまく走れるようです」とも。直感ではなく、ロジカルに走りを捉え、レースシムをツールとして上手に活用するというのが正解ということだ。