
MAZDAオートザムAZ-1(E-PG6SA型)。AZ-1は1992年10月に登場したガルウイングMRスポーツ。Kカー規格ながらDOHC12Vターボ、大断面サイドシルを持つスケルトン・モノコックフレール、4輪ストラット式サスペンションなど、すべてが最高の走りを目指していた。独自のボディ構造で、手軽にボディ外板が変更できる点も魅力だった。パワートレーンはスズキが供給
スーパーカーを無理やり小さくした雰囲気のAZ-1のルックスは、なかなか面白い。これが中途半端なクラスのクルマだったら、「いったい何やっているんだよ」という陰口をたたかれるかもしれない。だが、Kカーであれば、こうした遊びも正当化される。現に「楽しいじゃない」といった声はあちこちから聞こえてくる。
それにしても、こんな小さなクルマがガルウイング姿で登場するなんて……。おまけに限定車ではなく、量産車としてまじめに作られているとなると、外国の人たちはどんな印象を抱くのだろうか。聞いてみたいものである。
たとえば街中で始終カーバトルを展開しているパリやローマにAZ-1を持ち込む。AZ-1の鋭い身のこなしと加速で暴れ回ったら、アッという間に人気者になるに違いない。ひと暴れしたところで人目につきやすい場所に止め、おもむろにガルウイングを高々と上げてみせよう。現地の新聞や雑誌が取材に来るんじゃないだろうか。その記者を横に乗せて、ひと回りブッ飛ばしてやれば、「きっと、こいつのファンになってしまうだろうな」と想像は広がる。
AZ-1はボディ外板を交換できるユニークな構造だ。スケルトンモノコックの上にかぶせる別のスキンを用意し。ファッションショーのモデルのように一日に何回も違うスタイルで現れたら、今度はTV局まですっ飛んでくるかもしれない……。とにかくAZ-1の小さな姿からは、次々と楽しいシーンが浮かび上がってくる。
現実に戻って、AZ-1を走らせてみよう。エンジン&トランスミッションは、スズキが供給する。基本的には、アルト・ワークスやカプチーノと共通の直3ツインカム12Vターボ(64ps/8.7kgm)。それをコクピットの背後、つまりミッドシップにマウントしている。
AZ-1は小さいが、本物指向のレイアウトなのだ。
ガルウイングドアを開けて高いサイドシルをまたぐ。深いバケットシートに体を預けると、そこには紛れもないスポーツカーの世界が待っている。
64ps/8.7kgmを発生するエンジンは、720kgのウェイトをまったく軽々と引っ張る。とくに3000rpm以上では、パワフルのひと言に尽きる。「Kカーがこんなに速くていいのか」と思うくらい速い。しかもコクピットには情け容赦なくエンジン音が流れ込んでくる。クラッチのミート幅も狭い。
AZ-1は最近のクルマとしては、かなりスパルタンだ。だからよけいにスポーツ性は強くなる。
ハンドリングの刺激性もかなりのレベルだ。走り出した途端に、ミッドシップレイアウトの鋭い切れ味を、まさに否応なく味わわされる。ステアリングを手首の動きで軽くひねるだけで、AZ-1はスパッとノーズの向きを変える。まるでステアリングを軽くした、レース用のカートにでも乗っているイメージだ。慣れれば確かに面白い。だがミートに神経を使わされるクラッチといい、このステアリングといい、「ちょっとやりすぎ」といった印象も受ける。もう少し俊敏さを抑えても十分楽しめるし。特別なクルマに乗っているという満足感も味わえると思うのだが、どうだろうか。
気になったのは、日常的なスピード領域では、ステアリングを通じて伝わってくる情報量が少し不足ぎみな点だ。だから敏感さだけが目立ってしまう。ホットにコーナーを攻める領域に入ると、それなりのしっかりした手応えとインフォメーションが出てくるのだが、残念である。
コーナリング性能は十分に高い。テールが流れるときも、挙動は速いがタイヤが路面をつかみながら滑っているといった、しっかりした接地感があるので不安は少ない。ただウエット路面では、扱いにくいピーキーな特性が出るかもしれない。注意したほうがいい。
AZ-1の強固な車体構造は、非常に高い剛性感を生み出している。乗り味も、とてもKカーとは思えないほど質感が高い。荒れた路面でも、頑丈な車体がガッチリとショックを受け止めてしまうのは素晴らしい。
なにはともあれば、AZ-1は面白い。ボディ外板を簡単に交換して、「着せ替え人形」的に変身できる点にも、大きな可能性を感じる。ディーラーが「AZ-1用貸衣装屋」として店開きしてくれたら、本当に楽しくなるだろう。
※CD誌/1993年1月26日号掲載.
