自動車メディアに携わって30余年になるが、この業界にいるとサーキットを走る機会は多い。個人的に筑波サーキットで行われていたクラシックカーのスプリントレースにシリーズ参戦していたし、カップカーレースにスポット参戦した。もちろん業務として走らせてもらえることが多々ある。
その多くが新型車の試乗会で、国内外を問わずいろんなサーキットを体験した。メジャーなところでは、カリフォルニア州モントレーにあるラグナ・セカやポルトガルのエストリル・サーキットあたりだろう。その他ではアブダビのヤス・マリーナ・サーキット、ロードアトランタなど。そうそうスペインのアスカリ・レースリゾートも忘れてはならない。最近話題のコーンズ・アンド・カンパニーが手がけるTHE MAGARIGAWA CLUBは、そこにインスパイアされて作られた。アスカリは個人的に大好きなサーキットで、日本にもこんな場所があればいいのにと思っていた。そこに着目したのだからコーンズはさすがである。
なぜそんな話をするかというと、先日初めて岡山国際サーキットへ行ったから。周囲からも「え、初めてなの!」と驚かれるくらい縁のなかった場所である。
もちろん、その存在は知っていた。かつてはTI(ティーアイ)サーキットという名称でF1を開催していたからだ。1994年と1995年、パシフィックグランプリというタイトルで行われていた。当時の名前はTIサーキット英田(あいだ)。岡山県英田郡英田町に建てられたので、そうなった。ちなみに、TIはその時のオーナーであるタナカ・インターナショナルという会社の頭文字。ゴルフ場開発や運営をしていた。1990年オープンというからまさにバブル期の産物である。
なので、その副産物もしっかり残っている。今回の訪問はポルシェ・カレラカップ取材だったので、VIPラウンジとレストランを見せてもらって驚いた。「ここはかつての銀座のクラブ?」と思わせる装飾が残っていたのだ。ベルベット調の壁紙と豪華なシャンデリア、動物の首の装飾とレザー張りのドアなどなど。これまで富士スピードウェイや鈴鹿サーキット、モビリティリゾートもてぎ、オートポリスといった日本を代表するサーキットに足を運んできたが、こういった部屋は見たことがない。
いやもしかしたら知らないだけで、本当はそれぞれのサーキットにあるのかもしれないが、センセーショナルだったのは確かだ。思わず足を止めてしばらく眺めていた。確かにサーキットは社交場なのだからあっても不思議ではない。とくに岡山は会員制だったことを鑑みるとマッチしていたのかも。
それはともかく、取材当日のプログラムにタイカンターボGTの試乗が組み込まれていて、ストレート2本走らせてもらった。1000㎰以上あるクルマでいきなりの初サーキットとなれば慎重にならざるを得ない。それによく見ると高低差も思いのほかある。
結論からいうと楽しく走らせてもらった。バックストレートもあって踏めるところは踏めるし、テクニカルなコーナーがいくつもあった。周回を重ねるとどんどん楽しくなっていく、そんなコースレイアウトである。 それにしても気になるのは過度な装飾のあの部屋。まだまだバブルの置き土産が日本の至るところに残っていそうだ。