【菰田潔 CDゼミナール】BEVの暖房方法

航続距離を減らさないためのヒント

 今年BEV(バッテリー電気自動車)を買い、初めての冬を迎えるオーナーにBEVの暖房対策のヒントをお話しよう。

 エンジンがないBEVの暖房には排熱が使えないので、電気で車室内を暖める。せっかくバッテリーに充電した電気を走行ではなく暖房に使うのはもったいない、と考える。それはレンジ(航続距離)が短くなってしまうからだ。

 事前に車室内を暖めておくことができれば、クルマに乗り込んだ瞬間から快適に運転できる。それもバッテリーに貯めた電気を使わないでできれば最高だ。

 それには家で充電しながらクルマのヒーターを使えばいい。出発予定時刻に快適な車室内温度になるようにエアコンの予約をしておく。夏はクーラーで冷やし、冬はヒーターで暖める。
 これは充電できるクルマならBEVでもPHEV(プラグインハイブリッド車)でも可能である。外出先でもできる。スマホと繋げて、リモート操作も可能だ。

 室内温度を予約セットするとき、最適温度より高めに設定する。そうすると走りながらヒーターを使わなくても済み、電気の消費が抑えられる。最初の室温が高ければ、ヒーターなしでも意外と長い間、快適に走れる。

 走行中に使いたいのはステアリングヒーターとシートヒーターである。これはオプションだとしても注文すべき必須アイテムといえる。通常のエアコンのヒーターを使うのに比べてステアリングヒーターとシートヒーターの電力消費量は少ない。それでいてほぼ肌に近いところに熱源があるので、無駄なく暖かさを感じることができる。
 シートヒーターはお尻や腰、さらに背中も暖めてくれるから、ほかほか気持ちいい状態で乗れる。

 ステアリングヒーターはステアリングリム(輪の部分)で手を暖める。これは焚き火のように手の平を暖めることで、体全体が暖かく感じる効果もある。

 ステアリングヒーターとシートヒーターはなぜエアコンのヒーターより電力消費量が少ないのかというと、ファンを回すためのモーターを駆動していないからだ。ファンを回すと、意外に電気を使う。ステアリングヒーターとシートヒーターは電熱線に電気を通して暖めるだけで、温度が高くなってきたらサーモスタットで自動的にスイッチを切ってくれる。

 メーター内に表示されるレンジを見ながらエアコンを操作すると、レンジが変化するのを確認したことがあるだろう。エアコンをONにすると、だいたい10〜20%くらい走行距離に違いが出てくるはずだ。それをステアリングヒーターとシートヒーターの操作で試すと、いかにエアコンより電力消費量が少ないかが実感できると思う。

 BEVのエアコンヒーターはどのように暖めているのかというと、エンジン搭載車とはまったく異なる方法で熱を作っている。最新のPHEVやBEVではヒートポンプ式が増えている。これは熱交換器とコンプレッサーを組み合わせた装置。冷媒は電気モーターによりコンプレッサーで圧縮すると高温の液体になる。それを熱交換器で熱を取り出しヒーターの役目を果たす。その後、膨張弁で温度を下げて別の熱交換器で大気中の温度を冷媒に取り込み温度を上げ、再びコンプレッサーで温度を上げることを繰り返す。

 この方式は、外気温が低い場合は不利だが、ガスインジェクションを使ってこの点を克服。消費電力は以前に比べて大幅に少なくなっている。それでもファンを回すのでステアリングヒーター、シートヒーターだけのほうが、消費電力は少ないということだ。

 

こもだきよし/モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会会長。BMWドライビングエクスペリエンス・チーフインストラクター。BOSCH認定CDRアナリスト。1950年、神奈川県出身

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