乗用車の電動化を進めている欧州で、大型商用車と農業用トラクターでの水素利用が活発化してきた。2024年早々にも排気量13ℓクラスの大排気量ディーゼルICE(内燃機関)を水素燃焼ICE化する実証実験が始まる。
水素ICEはドイツのFEVやオーストリアのAVLなど有力ESP(エンジニアリング・サービス・プロバイダー=開発支援会社)が開発した。
欧州のOEM(自動車メーカー)は、大型商用車について「BEV(バッテリー電気自動車)化は非現実的」としている。その理由は電池重量と電池搭載スペースの確保により「10トン積みトラックはその半分程度しか荷物を運べなくなる」ためだ。
しかしEU(欧州連合)は自動車輸送のCN(カーボン・ニュートラリティ=実質的にCO₂排出ゼロ)化を目指し、将来的には大型商用車にも規制をかける方針を打ち出している。ディーゼル燃料が使えず、電気自動車化が難しいとすれば、どう対応するのか。
そこで水素利用がクローズアップされている。欧州OEMはBEV化が難しい大型商用車のパワートレーンとして、ディーゼルICEを水素燃焼に転換する開発を進めている。実際の開発は社内だけでなくESPへの委託も多い。来年早々に始まる水素ICEトラックの実証実験には200台程度が参加する予定だ。
IAV(ドイツのエンジニアリングサービス会社)によると、実験の第1段階ではPFI(ポート内噴射)方式の水素ICEで所定の性能が出るかどうかを試験し、第2段階として燃料噴射圧が低めのDI(筒内直噴)へ、第3段階で高圧燃料噴射のDIをテストするという。軽油でもガソリンでもPFIは吸気管内に燃料を噴射し、空気と燃料が混ざり合い「混合気」の状態になってからシリンダー内に入る。そのため「燃料と空気がよく混ざった均質な混合気」が得られる。水素の場合も同じだという。
ただしPFIだとプレイグニッションが起きやすい。ディーゼルICEはプラグ点火ではなく圧縮着火であり、筒内の圧力が高くなる圧縮工程の最後で燃焼が始まるが、水素は燃えやすいため圧縮行程の途中で“何らかの理由”で着火してしまう。これがプレイグニッションである。プレイグニッションはガソリンでも軽油でも起きるが、水素ではより顕著だという。
また、ポート内に水素を噴射した直後、空気と混ざって突然燃焼するバックファイアも水素燃料では起きやすい。これも一種のプレイグニッションである。これを防ぎながら燃費も向上させる手段としてDIがある。高圧DIは現状ではまだ課題が多いため、各社ともまず低圧DIの実車試験を始める。
農業用トラクターでも水素ICEは有望だといわれる。クレーンやショベルカーなど大型の建設機械では水素を使って発電するFC(燃料電池)が適しているといわれる。いずれもBEV化はコスト面でも難しい。
ダイムラーなど欧州の商用車OEMも水素をICEとFCの両方で使う研究を続けており、2020年代後半にはかなりの台数の水素利用車が実用化されそうだ。
水素インフラの整備も進んでいる。ドイツのH2モビリティ・ドイッチュラントによると、ドイツ国内からベルギー、オランダといった沿岸部にかけては水素補給ステーションがほぼ整いつつある。水素価格も今後4〜5年で競争力が出てくるとの読みだ。すでに水素を関連のプロジェクトはいくつも動き出している。