カーボンニュートラルを推進するために、いま水素の可能性に注目が集まっている

「敵は二酸化炭素」を実践するために、「水素」をどう活用するか

トヨタMIRAIは燃料電池システムを搭載するFCEVの代表的なモデル。現行型は高圧水素タンクを3本搭載して、航続距離は約850㎞。水素の充填ステーションが行動範囲の中にあれば、ガソリン車と同様に使える。最上級Zグレード(860万円)の場合購入補助金は145万3000円になる

 道路交通のカーボン・ニュートラル(炭素均衡=以下CN)化は単一の技術では不可能。日欧米の自動車工業会が互いにこの方向性を確認し、BEV(バッテリー電気自動車)以外の選択肢についての必要性を再確認したのは今年4月だった。この中でひとつのポジションを得ているのが水素の利用だ。すでに各方面で自動車に水素(H₂)を使う試みが始まっている。

 まず、水素を使って発電するFC(フューエル・セル=燃料電池)を使ったFCEV(燃料電池電気自動車)。この分野はかつてダイムラー・ベンツ、トヨタ、GM、ホンダが開発を競い、トヨタとホンダは市販モデル発売に漕ぎ着けた。

 現在は中国国営OEM(自動車メーカー)の第一汽車、広州汽車のほか商用車大手の北京福田汽車なども開発に参画している。中~大型トラックと大型バスをFCで走らせることを狙っている。

 発電を行うFCスタックは中国製と海外製の両方を試験車に搭載している。この分野で実績のあるカナダのバラード・パワー・システムズは現在、中国企業が筆頭株主である。また、中国政府が開発資金を提供し、FCよりも低コストで使えるH₂燃焼ICE(内燃機関)の両方を開発しているほか、北京福田汽車はトヨタ・グループと技術提携を行っている。

トヨタはルーキー・レーシングを通じて水素エンジンのレーシングカーでモータースポーツに参戦。速さ/信頼性/耐久性などを厳しい環境の中で磨き上げている

 FCスタックの技術では日本が固体高分子膜方式でリードしているが、白金(プラチナ)を使うためコストが高くなる。トヨタは現在、世界で最も低価格でFCスタックを作ることができる企業といわれるが、中国は量産規模の効果でさらに安価なFCスタックを量産する計画を進めている。

 一方、H₂を燃料として使い直接ICEで燃焼させる方式については、世界初の市販H₂燃焼ICE車を発売したBMWをはじめメルセデスベンツ・グループ、ESP(エンジニアリング・サービス・プロバイダー=開発請負会社)であるオーストリアのAVL、ドイツのFEV、IAVなど欧州勢が開発を進めている。中〜大型商用車向け6気筒ICEが主流であり、燃料となるH₂は再エネ(再生可能エネルギー=太陽光、風力、地熱など)発電によって作り出す計画が並行して進められている。

オーストリアのエンジニアリング会社AVLが開発した水素を燃料として利用するエンジン。AVLは4気筒の水素エンジンも手がけている

 米国ではGMとホンダがFCEV分野で協力してきたが、現在のバイデン政権は水素よりもBEVの普及を優先している。また、テスラという成功例があるため経済界から「無駄な研究」という考え方が多い。その一方で、大型トラック用ICEの分野では「BEVは普及しない」といわれており、H₂燃焼ICEの開発が進んでいる。

 日米欧の自動車工業会は「CNを目指すにはBEVだけでは不十分」「技術には多様性が必要」との認識で一致している。中国では「年間1000万台のBEVとHEV(ハイブリッド車)を生産し、500万台の古いICE車をスクラップにしても、国内の自動車保有台数が3億5000万台に届く2030年時点ではBEVへの充電のために発電段階でのCO₂発生増により年間1900万㌧のCO₂超過になる」と試算されている。

 日本ではトヨタがH₂燃焼ICE車をレースに投入し注目されているが、世界でもH₂への注目度は高まってきた。

SNSでフォローする