
ホンダ・プレリュード/価格:617万9800円。プレリュードは発売1カ月で目標の8倍となる2400台の受注を獲得。パフォーマンスは優秀。S+シフトは圧巻。絶対的な速さはそこそこだが楽しさは最高。足回りはスムーズな乗り心地と、グイグイ曲がる旋回性能を両立。燃費性能も高水準
新型プレリュードを公道でドライブした。プレリュードは2024年9月3日の発売から1カ月で月販目標の8倍となる約2400台の受注があったとのこと。まずは順調な滑り出しと見ていいだろう。
価格は617万9800円。かつてデートカーとしてもてはやされたときには、それほど「高い」という印象がなかったせいか、新型は車両価格が高いと話題となっている。だが冷静に考えるとシビック・タイプR(以下タイプR)譲りの凝ったメカニズムがふんだんに与えられているのだ。それなりのプライスになって実は不思議ではない。
そのタイプRも、RACING BLACK Packageの価格が改定され、プレリュードとまったく同じ金額になった。今回はプレリュードを公道で走らせた印象とともに、2台の関係性をあれこれ比較してみたいと思う。

ホンダ・シビック・タイプRレーシングブラックパッケージ/価格:6MT 617万9800円。タイプRは現在レーシングブラックパッケージのみ受注を再開。エンジンは珠玉の2リッターターボ(330ps/420Nm)。圧倒的に速くサーキットランも自在にこなす本格派
まずは、ドア数が違えば後席の居住性も違う。走りの個性の前に後席に人を乗せる機会があるかどうかが分かれ道になりそうだ。だがプレリュードも歴代と違ってハッチバックになった。それは、使い勝手のよさを重視したためで、荷室は十分に広い。後席も意外に使える。プレリュードが前席優先なのは間違いないが、ユーティリティは互角といえる。
やはり注目は走りだ。タイプRには、速さこそ正義というわかりやすい原理原則がある。対して、プレリュードが求めたのは、「どこまでも行きたくなる気持ちよさ×非日常のときめき」である。
パワートレーンはタイプRが300psオーバーのガソリン直噴ターボ。プレリュードは2モーターのハイブリッド。加えて3ペダルか2ペダルかという違いもある。絶対的な速さはもちろんタイプRに軍配が上がる。だが気持ちよさでは拮抗する。
プレリュードにはe:HEVでもマニュアルシフト感覚を楽しめるように、「S+シフト」という新兵器が与えられた。これを使うと、実際のドライブフィールが、グンと楽しくなる。
公道にもいろいろあるが、ワインディングでスポーティな走り方をすると加減速やサウンドで、いわばエンジン回転数が動くことを楽しめる。反対に郊外路や高速道路ではアクセルを操作してもエンジン回転数があまり上下しない、動かないよさを味わえるようになっている。これを開発者から説明を受けたときにどういうことかと思ったのだが、実際に試すとその意味が理解できた。シーンに応じて別々の心地よさが味わえるのだ。可能であれば試乗で実感していただきたい。
一方のタイプRは、FF世界最速を標榜するマシンだ。スポーツドライビングの真髄が堪能できる。高性能エンジンと操作性に優れたMTを操る醍醐味は、もはや説明するまでもないだろう。
シャシーはともに凝っている。特徴であるデュアルアクシス・ストラットサスペンション、アダプティブダンパー・システム、高応答ステアリングシステム、等長ドライブシャフトといった最上のアイテムが共通して与えられていて、それぞれにふさわしく味付けされている。ホイールベースはタイプRが2735mm、プレリュードは2605mm。車重は1460kgに対して1430kgと、タイプRのほうが30kg軽く仕上がっている。
チューニングは「速さこそ正義」がヒシヒシと伝わってくるタイプRに対し、プレリュードは「操る喜びと快適さ」を引き上げることを念頭に置いている。具体的には路面追従性にこだわり、サスペンションをしっかりとストロークさせることで、路面からの入力に対してカドのないスムーズな乗り心地と、グイグイと曲がっていける高い旋回性の両立を目指したという。タイプRで感じた高いポテンシャルを活かし、速さよりも気持ちよさに振ったフィーリングだ。S+シフトも操る喜びの追求にひと役買っていることは、乗ればよくわかる。
ブレーキがまた素晴らしい。タイプRならわかるが、プレリュードにもブレンボ製の電動サーボブレーキシステムが与えられていることにはちょっと驚いた。その甲斐あってどんなシーンでも扱いやすい特性とともに、しっかりと剛性感のあるブレーキフィールを実現できている。
アジャイルハンドリングアシストについては、プレリュードでは制御作動領域を拡大し、カーブへの進入などでブレーキを踏んだ状態でも作動するようにされたのが新しい。より小さな舵角で曲がることができ、挙動がシームレスにつながり安定して乗りやすくなったように感じられた。
水平基調のインストルメントパネルやノイズレスでクリーンな視界は、両車とも共通している。また、プレリュードは両サイドのフェンダーを盛り上げることで、車両の向きやサイズなどの感覚を把握しやすくなっている。そのメリットは今回の雨中のドライブで明確に感じた。
2台は、まったく異なるパワートレーンと共通性の高いシャシー構成パーツを用いながら、プレリュードはスペシャリティスポーツ、タイプRはピュアスポーツとして、それぞれの魅力が巧みに表現されていた。どちらもスポーツドライバーにとって最良のパートナーである。ともにホンダらしさが凝縮された傑作だ。
