そもそもデザインとは何か?カーデザイナーの役割とは何か?中村さんに、まずはそこから語っていただいた。
「デザインは最終的にカタチだと思っている。クルマのカタチをつくる人をカーデザイナーと呼んでほしい」と前置きしつつ、「しかしそれだけではデザイナーの想いがお客様に伝わらない」
中村さんは1999年秋に、いすゞから日産に転職した。日産のデザイン部門のトップになった中村さんは、カタログを統一されたデザインに刷新した。日産ブランドに一貫したイメージを持たせるためだ。TVコマーシャルにも意見を出した。
社会の変化のなかで、「近年の大きな動きはアジアにある」と中村さんは指摘する。「韓国に続いて中国やインドの自動車産業が成長し、デザインの実力を高めている」
そんな中で日本の強みは何だろう?
「韓国や中国とは違って、日本にはスポーツカーがいろいろある。トヨタにはスープラとGR86、日産にはフェアレディZとGT-R、マツダにはロードスターがある」と中村さん。
「しかも1960年代から連綿とスポーツカーをつくってきた。このスポーツカーの歴史は、もっと誇るべきだと思う。技術的にもデザイン的にも、スポーツカーはクルマの魅力を凝縮したもの。それをつくれるかどうかの差は大きい」
日本の強みとしては、「日本にしかつくれないデザインがある」と即答し、まず日本の美意識をあげた。「日本人の繊細な感性を発揮することが、世界で戦う武器になる。日本的な造形の美しさは、日本人にしかつくれない」
そして、日本人の「おもてなし精神」も、強みになるという。「相手があって自分たちがあると考えるのが、おもてなし精神。使う人の気持ちをカタチにするのが日本のデザインだ」
デザインの世界には「フォルム・フォローズ・ファンクション」という格言がある。中村さんは「もちろん機能は大事だ」と前置きしつつ、日本のデザインはむしろ「フォルム・フォローズ・エモーション」だと語る。使う人のエモーション(気持ち)を察して、見て心地よいカタチ、使いやすいカタチをつくる。それはまさに、おもてなし精神という日本文化の発露だ。
「お客様を観察し、お客様が自分では気づいていない心の深いところにある気持ちを理解する。そこに共感しながら、デザイナーは自分の想いを固め、創造力を発揮してそれをカタチに込める」と、中村さんは「フォルム・フォローズ・エモーション」の極意を説明してくれた。そしてこう締め括った。「30年後には、2020年代の日本車はすごかったといわれるかもしれない。課題の多い時代だけれど、そのほうがデザインは面白い。だから、この時代にデザインできるのは幸運なこと。私自身、そう思っている」
※この記事は「自動車ガイドブック2024-2025 Vol.71」からの抜粋です

中村史郎(なかむら しろう)/1974年にいすゞ入社、アートセンターカレッジ留学、GMデザイン勤務を経て欧州デザインマネージャー、米国副社長、デザインセンター部長を歴任。1999年に日産自動車に入社、2001年に常務執行役員就任後、2017年の退任まで「日産デザイン」を牽引。2020年より株式会社SN DESIGN PLATFORM 代表取締役
