【モータースポーツ特集2025】バーチャルからリアルへの道

次世代レーサー発掘・育成プロジェクト
マツダの「チャレンジプログラム」は
速さだけでなく社会性も高められる

 マツダがルマン24時間レースで総合優勝を飾った華々しい歴史から30年後となる2021年、MAZDA SPIRIT RACING (以下、MSpR)が立ち上がった。MSpRは、現在スーパー耐久を頂点としたモータースポーツへのワークス参戦を行っているが、他のメーカーとは一味違った取り組みを行っている。

 具体的にはeスポーツの世界、つまりバーチャルの世界で活躍する次世代人材に着目し、レーシングゲーム『グランツーリスモ7』上で開催しているオンライン大会“MAZDA SPIRIT RACING GT CUP”の上位30名ほどを筑波サーキットに招待。そこで実車のマツダ・ロードスターでの走行を含めたオーディションを行い、選考選抜されたメンバーでチーム結成する。そしてこのチームがリアル(現実)のレースであるマツダファン・エンデュランス(通称:マツ耐)に参戦する、という“チャレンジプログラム”という取り組みを2022年から行っており、今年で3期目を迎えた。

チャレンジプログラム“バーチャルからリアルへの道”でチーフインストラクターを務める加藤彰彬さん。レーシングチーム、TCR CORSEの代表でもある

 これまでの卒業生の中にはマツダ・ロードスターのワンメイクレースであるパーティレースで活躍し、さらにはスーパー耐久シリーズにも参戦するなど、すでに将来有望なドライバーを輩出する実績を持つ。だが、マツダがこの活動を通じて目指しているのは、プロとして活躍するトップドライバーを多数輩出することではなく、あくまでもモータースポーツ文化の普及である。そして、ことeスポーツをベースに取り組んでいるのは、クルマ離れといわれて久しい若年層に対して、マツダのブランドを広めるためのブランディング活動でもあるというわけだ。

チャレンジプログラム“バーチャルからリアルへの道”の1期生の三宅陽大さん。3月のパーティレース開幕戦は5位でフィニッシュした

 このチャレンジプログラムで興味深いところは、まずその選考アプローチにある。最初のハードルであるバーチャル上での選考こそタイムがすべてとなるが、実際にメンバーとして選考されるプロセスにおいては、一人ひとりの姿勢や行動、そしてメンタル面など、さまざまな側面で評価している。過去2年の運営知見を踏まえ、2025年についてはとくに人物面、たとえば、団体行動ができ、報告・連絡・相談ができるか、協調性を保てるかなど、1年を仲間とともに過ごせることを最も重要視したとのこと。

 耐久レースに参戦する、というチームを編成するだけあって、個々人のドライビングスキル向上だけでなく、チームや周囲の人々 と協力し、コミュニケーションが円滑にできる人物像が理想というわけだ。要するに、「人としての素直さ」や「(プロのアドバイスを自分のものにしようとする)前向きな姿勢」を重視することで、もとより速さを持っているわけではない参加者にとっても、最終的に個々人の成長やチームへの貢献に直結するように、ということを大切に考えたそうだ。

 5月下旬に大阪にあるシミュレーターラボ(SPK株式会社内)で行われたシミュレーター練習日では、マツ耐のレギュレーション講習にはじまり、各コースの攻略法の講義、そしてシミュレーターによる実践練習が行われた。参加者が真剣な眼差しで講師のアドバイスに耳を傾ける姿勢を見せ、着実にスキルアップしていく姿を見ると、一日も早く彼らが実際のレースで走行している姿も見たくなった。デビューレースは、7月26日の筑波サーキットで開催されるマツ耐である。はたして、どのような成長ぶりを見せてくれるのだろうか。精悍な姿をみるのが待ち遠しいかぎりだ。

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