本誌カバーイラストでおなじみの岡本三紀夫さん。画家のモネが同じ睡蓮のモチーフで連作したように、童話作家の宮沢賢治が何度も作品に手を入れたように、カバーイラスト発表後にも岡本さんの試行は続いていました。今回はそんな作品を中心にご紹介します。
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作品3点の原画は、いずれもイラストボードにアクリル絵の具で描きました。アクリル絵の具はいったん乾くと水に溶けない性質で、ポスターカラーやそのほかの絵の具と比べて塗り重ねに気をつかうことはありません。透明絵の具なので塗る順番に注意して、描き直しなどは比較的自由にできるのが利点です。
たとえば、作品1は『カー・アンド・ドライバー』の表紙用に描いた作品で、背景は雪で遊ぶカップルでした。出版後、手元に戻った原画の背景などを描き換えました。
クルマは、フランスのタルボ・マトラ・ムレーナです。一見するとシンプルなデザインのスポーツカーですが、前列は3人分のしっかりとしたシートを装備しています(運転席+2人席)。ですから車幅は少し広く、全体のデザインに影響しているかもしれません。
昔は映画などで、前席のベンチシートに3〜4人詰めて座るシーンをよく見かけました。このクルマのシートは、「3人の関係性によっては少し気まずいなア」と思いながら描いた記憶があります。
作品2は、1965年のフォード・サンダーバード(4thモデル)です。サンダーバードは、2シーターの小さなボディからスタートして、2ndモデルは4シーターの大きなボディになり、4thモデルまでが絵心をくすぐるデザインでした。この後ボディがさらに大きくなり、立派になりますが、絵にするには微妙なデザインに変わっていきました。あくまで個人的な好みです。
この作品は、マトラ・ムレーナと同じく原画を作り直しました。背景はまったく違う景色に再構成して、アクリル絵の具で描き換えました。また、デジタルソフトを取り入れて、ボディカラーは原画の赤から明るいブルーに変えました。
デジタルの瞬時に色を変えられる点は魅力です。そのほかコンバーチブルをクローズドにしたり、ホイールを含め細かい部分をかなり変更しました。
デジタル加工でも、手描きの雰囲気は残すように工夫しました。デジタル上級者から見れば大笑いされそうなレベルですが、デジタルの優位性を試す作業はすごく楽しめました。もともとアメ車は好きで、この絵もお気に入りの作品です。
作品3は、アメリカ人作家、クライブ・カッスラーの『タイタニックを引き揚げろ』のブックカバーイラストです。実は依頼の前にこの小説が原作の映画『レイズ・ザ・タイタニック』を偶然見ていて、おおよそのイメージはできていました。ただ、作品にしたいシーンがあまりなく、結局一番派手なネタバレ的な場面になってしまいました。
既刊の新潮文庫のカバーイラストは、映画のクライマックスシーンをそのまま使用していました。資料画像も同様でほかに選択肢はなく、ボクも許可を得てその場面を絵にしました。さすがにそのままというわけにはいかず、映画に登場するNAVYのヘリコプター、タイタニック号の船首からこぼれ落ちる海水、遠くの水平線を傾け、絵に動きが出るように構成しました。
近年、同じ小説のカバーを上下巻に分けて描きました。小説自体はいまも人気があるようです。実際のタイタニック号が海底で3つに分かれて沈没していたという事実がわかっていたら、この小説は誕生していなかったでしょう。なお、小説にでてくるアメリカとソ連の緊張感などは映画ではほとんど描かれておらず、小説と映画はまったく別物の印象でした。
おかもとみきお/1951年、東京都出身。桑沢デザイン研究所を卒業。日本デザインセンターを経て、1977年からフリーランスのイラストレーターとして活動を開始。本誌カバーイラストは1984年から担当。AAF オートモビル・アート連盟理事長。東京都在住
やまうちともこ/TOKYO-FMパーソナリティを20年以上つとめ、インタビューした人1000名以上。映画評論家・品田雄吉門下生。ライター&エディター